53人が本棚に入れています
本棚に追加
おでんの蓋を開けると、半透明な白い蒸気がゆっくりと立ち昇っていく。
ダシと、プラスチック容器の化学的な匂いが入り混ざった、このなんとも言えない香り。
「これさ、プラスチックの匂いしない?」
…また、かよ。
「それ、今俺も思ったんだって…真似すんなよ」
「自意識過剰」
「俺らって似てんのかな?だから」
「ない」
慣れた手つきで辛子を割り箸に挟んで蓋に出した亮介は、容赦無くバッサリと斬った。
…そんなに否定されると流石にショックなんですけど。
「俺に似てるって言われんの、不服ってか?」
「そんな事はないけど」
「あっそう」
「羨ましいよ」
「えっ?」
一口で大根を半分以上食べて、まるで何事もなかったかのように黙々と咀嚼している。
でも俺ははっきりと聞こえた、間違いはない。
家が不動産屋を経営してる、歴とした坊ちゃん。
元から頭がよく、サボり癖もないため、成績は常に学年上位。
運動神経も抜群によく、先輩が引退する前からキャプテンだった。
身長も高ければ、顔もそこそこいい。
何より私情を口にすることなんか滅多にない、そんな亮介が"羨ましい"だなんて単語を言ったのだから、空いた口が塞がらない。
最初のコメントを投稿しよう!