動き出した秒針

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おでんの蓋を開けると、半透明な白い蒸気がゆっくりと立ち昇っていく。 ダシと、プラスチック容器の化学的な匂いが入り混ざった、このなんとも言えない香り。 「これさ、プラスチックの匂いしない?」 …また、かよ。 「それ、今俺も思ったんだって…真似すんなよ」 「自意識過剰」 「俺らって似てんのかな?だから」 「ない」 慣れた手つきで辛子を割り箸に挟んで蓋に出した亮介は、容赦無くバッサリと斬った。 …そんなに否定されると流石にショックなんですけど。 「俺に似てるって言われんの、不服ってか?」 「そんな事はないけど」 「あっそう」 「羨ましいよ」 「えっ?」 一口で大根を半分以上食べて、まるで何事もなかったかのように黙々と咀嚼している。 でも俺ははっきりと聞こえた、間違いはない。 家が不動産屋を経営してる、歴とした坊ちゃん。 元から頭がよく、サボり癖もないため、成績は常に学年上位。 運動神経も抜群によく、先輩が引退する前からキャプテンだった。 身長も高ければ、顔もそこそこいい。 何より私情を口にすることなんか滅多にない、そんな亮介が"羨ましい"だなんて単語を言ったのだから、空いた口が塞がらない。
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