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「なんか、都合悪いことでも…」
「いやいやっ、そういえば母さんが準備とか後片付けが大変って言ってたからさっ」
「あー、それは家政婦に任せとけばいいよ」
正直、うちの家も準備や後片付けは雇っている家政婦さんにやってもらってる。
ただ美咲の口から発されたその"単語"は、俺からすれば意味が違っていた。
「…家政婦って…」
「ほら、前家に来てくれた時に居たおばちゃん二人とその娘。あたしと同い年の」
頭をハンマーに勢い良く、打ちつけられた気分だ。
同い年だと分かってて、どうして平気でそんな事が言えるのか。
たぎる堪え難い怒りを懸命に鎮めて、拳を握ることで紛らわそうと努める。
「…あんまり、仕事させんなよ」
「え?」
「同い年なんだし」
「可哀想ってこと?」
可哀想、なんかじゃない。
でも言葉にして、表現なんかできない。
「…とりあえず俺ん家、今年は多分外で飯食うから」
「そっかー。じゃ、あたしもやっぱり外にしよーっと」
キーン コーン カーン コーン
救いの手を差し伸べてくれた予鈴。
美咲は"もう行くね"と言ってそそくさと帰って行った。
俺はその後の授業は、押し寄せる不甲斐なさを耐えるばかりで、全くと言っていいほど集中できなかった。
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