哀しい、粉雪

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『あー、それは家政婦に任せとけばいいよ』 あの平然とした顔に、あたかも当たり前のような口調。 殴り飛ばしたくなるほどの腹立しさが再び、蘇ってくる。 甘やかされて育った同年の美咲の世話を、ずっとしてきたんだ。 いつも気丈に振る舞っているけど、苦しくない筈がない。 …ああー、忘れろ忘れろ。 この貴重な時間を大切にしろって。 自分に暗示をかけている差中、通路脇に立ち止まっている高校生らしい男二人を横切ろうとしたとき。 「今の子、可愛くなかった?」 「右だよな?思った」 ありふれた、男子だけの会話。 奴らの視線を辿ったのは、本当にただの興味本位。 でもそれがあの二人で、右側にいたのはしずだと分かった瞬間、胸の中で小さな摩擦が生じる。 無理やりこすり合わせて、ひりひりと疼く感覚は何かを急き立てているみたいだった。 …他の奴から見ても可愛いか、そりゃ。 「って、今聞いてなかったでしょ」 「おかしいなぁ?昨日耳掃除したばっかなんだけどなぁ」 「もうっ!」 黒ビー玉みたいな、まん丸で大きい瞳。 低いながらも、小さく尖った鼻。 真っ白な肌にやや厚みのある唇の赤みが映える。 以前のように前髪を作り、多少幼さが戻ったけれど。 それでも見間違えるほど、綺麗になっていることに変わりはない。 だから、なのだろうか。 "しず"じゃないような、そんな錯覚に陥る。 「ちゃんと勉強しないと本当に怒るからね」 「へーい…」 時計の針が刻んだ時間は、同じはずなのに。 自分だけが、…取り残されてるように感じて仕方ない。
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