哀しい、粉雪

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「そういえばゆっちん、クリスマス、悠太くんと過ごすの?」 物思いに沈んできた意識が、ぐいっと引き戻される。 この数日間、何のために明智中学に諦めずに通いつめたのか。 しずに会いたいのもそうだが、一番の目的はプレゼント調査。 しずがクリスマスの話題をふってくれるとは思ってなかったけど、切実にこの流れで、欲しい物を言ってほしい。 「多分そうなるのかな?」 「どこか行くの?」 「紺鹿にでっかいツリーがあるらしくて。それ見に行こうって」 「わー、いいなぁ」 ゆっちん、彼氏が出来たんだ…。 昔から知っている分、その事実はちょっとした衝撃となった。 「しずはお母さん?」 「うん。でもプレゼントまだちょっと迷ってるの」 え…? プレゼントって、お母さんに、だよな? 「電気で暖かくなるひざ掛けか、もこもこカバーの湯たんぽ。どっちがいいと思う?」 「うわー、迷うねぇ」 「ひざ掛けは普通のチェック柄で、湯たんぽの方が模様の種類がいっぱいあってすごい可愛いの。でも冬になると足痛むから、やっぱり実用的なひざ掛けかなぁ」 親にクリスマスプレゼントを送るなんて聞いたこともなかったから、拍子抜けてしまった。 彼女の顔は見えないけれど、悩む声はどことなく楽しそうで。 優しいところやお母さん思いのところは、あの頃から何も変わってないんだと実感できたら、さっきまで彼女を何処か遠く感じていたのが嘘みたいに、嬉しさや安堵が胸を満たした。
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