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どこに向かっているのか、分からない。
どれくらい走ったのか、定かではない。
「…はぁ……はぁ……」
脇腹がひどく疼き、脚が限界に達したころ。
肩で息をしながら、思わず蹲ってしまう。
熱い手の甲にぽつりぽつりと冷たい感覚。
見上げると、橙色の明るい街灯の光に染められた雪がゆらゆらと舞い降りてく。
寒々しい夜空を包み込むような、優しい粉雪。
『ねぇ、ゆっちん。今年のクリスマス、雪降るかなぁ?』
『今年もなさそうだよね』
『ホワイトクリスマス、一度でいいから見てみたいなぁ』
本来なら手紙を見て、感動に浸っているはずなのに。
嬉しさを噛み締めているはずなのに。
何もかもから目を逸らしたくて、これでもかというほどに目蓋をきつく閉じる。
すかさず浮かんでくるのは、やっぱり小さいあの女の子。
『しずもさっき…あ、しずって私の名前なの』
…ごめんっ。
『それで、しずもさっき悲しい事があったの。でも元気出たから、…その、ありがとう』
本当ごめん…っ。
押し寄せる自責の念が、益々呼吸をさせにくくして。
5年目にして自覚した恋心が一瞬にして砕け散った哀しさと虚しさは、目頭を熱くさせる。
他の奴のものになるなんて、耐えられなかった。
まともに生きていける気がしなくて、…壊した。
『すごく元気になったの。本当にありがとう』
あれほど幸せにしたかったあの子の想いを。
あれほど恋い焦がれたあの子の幸せを。
…俺がこの手で、壊してしまったんだ。
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