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「…なんか匂うんだよねぇ」
「えっ、うそっ?」
他へ衣装を配りに行った彼の背中を、険しい目つきで追っていた有ちゃんは顎をさすっていた。
まるで探偵が犯人なのかと思案する仕草そのもの。
今朝食べた納豆の臭いが服についてしまったのかと、慌てて嗅いだら。
「違うって、そっちじゃない」
…なんだ、良かった。
ついてたらどうしようかと思った。
「高木って、やけにあんたに優しいなぁって思って」
…何を言うと思ったら。
高木くんは絵に書いたような、委員長的な人。
誰とも分け隔てなく接して、ここぞという時に皆をまとめてくれる。
ただ、それだけだ。
「それ、絶対気のせいだから…」
「こないだ雫が先に帰った時にさ、あの出っ歯がまたぎゃーぎゃー文句たらしてたのよ」
出っ歯だと有ちゃんが罵っているのは、ちょっと気がきつい稲田さんのこと。
私が準備に参加していないことを、快く思っていない。
でもそれだけ文化祭を楽しみにしている証拠。
何より言われて当然なことをしてしまっているのだから、致し方ない。
「そしたら高木がさ、事情も知らないのに騒ぐなって一喝して」
「え…?」
「んで、奴ら聞くじゃない?なんでなのかって。そしたら一睨みで黙らせたのよ、全員」
…どうしよう。
どうやら自分は思った以上に迷惑をかけてしまってたらしい。
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