夜空、溶けない温度

3/26
前へ
/26ページ
次へ
「…なんか匂うんだよねぇ」 「えっ、うそっ?」 他へ衣装を配りに行った彼の背中を、険しい目つきで追っていた有ちゃんは顎をさすっていた。 まるで探偵が犯人なのかと思案する仕草そのもの。 今朝食べた納豆の臭いが服についてしまったのかと、慌てて嗅いだら。 「違うって、そっちじゃない」 …なんだ、良かった。 ついてたらどうしようかと思った。 「高木って、やけにあんたに優しいなぁって思って」 …何を言うと思ったら。 高木くんは絵に書いたような、委員長的な人。 誰とも分け隔てなく接して、ここぞという時に皆をまとめてくれる。 ただ、それだけだ。 「それ、絶対気のせいだから…」 「こないだ雫が先に帰った時にさ、あの出っ歯がまたぎゃーぎゃー文句たらしてたのよ」 出っ歯だと有ちゃんが罵っているのは、ちょっと気がきつい稲田さんのこと。 私が準備に参加していないことを、快く思っていない。 でもそれだけ文化祭を楽しみにしている証拠。 何より言われて当然なことをしてしまっているのだから、致し方ない。 「そしたら高木がさ、事情も知らないのに騒ぐなって一喝して」 「え…?」 「んで、奴ら聞くじゃない?なんでなのかって。そしたら一睨みで黙らせたのよ、全員」 …どうしよう。 どうやら自分は思った以上に迷惑をかけてしまってたらしい。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加