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「有ちゃんにそう言われると嬉しい」
「…で?理由は?」
「えっ?」
「だから泣き腫らした目で登校してきたワケ」
「ああ…だからあれだよ。久しぶりに感動ものの小説を」
「思い出したのはどーせ嘘でしょ。髪までこんなばっさり行って」
あの日、帰ってきてから目はたんと冷やした筈だったのに。
朝、見たくないものを目撃してしまい、涙腺は呆気なく崩壊。
そして有ちゃんにバレてしまったという経緯だ。
「…暑かったからだよ」
「いや、嘘だね。高木がないってのもさ…やっぱりあれのせい?」
有ちゃんが表情を歪めて、お箸でどこかを指して。
顔をむけてすぐに捉えた、教室の前を通る男女の姿。
…見てしまったことを、激しく後悔した。
美咲さんと、楽しそうに笑う…奏人くん。
背中の窓から差し込む日差しに負けないくらい、キラキラしてる。
ちくりと針に刺されたような痛みが走った直後。
右側を歩き、美咲さんに話している彼と目が合ったような気がして。
………っ。
自意識過剰にも、ほどがある。
それでも反射的に身体ごと背けて、次は目の前にいる有ちゃんとばっちり目線が交わる。
「…わかりやす」
呆れ返った表情に、返事もできなかった。
螺旋みたく交差しあう正体不明の感情にまた…悶々とさせられていた。
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