夜空、溶けない温度

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「緒沢さん、雑巾ちょっと洗って来てくれない?」 拭き掃除に使用した数枚の雑巾を、次から次へとバケツの中に放り込む稲田さんとそのお友達さん。 勢いによって散らばる汚い水が、遠慮なく床に零れる。 「あ、ごめんねー。ちょっと力んじゃった」 「…大丈夫です」 中の雑巾を一枚取り出し、軽く絞って濡れた箇所を拭く。 屈んだ頭上から刺さるような視線を感じる。 裁縫の得意な有ちゃんは家庭科室へ借り出されている。 一人の時はいつもこんな感じ。 慣れてるとはいえ、やはり心地の良いものではない。 さっさと切り上げようと、重たいバケツを両手で持ち上げ、教室を出ようとしたら。 「あ、緒沢さん。ついでにこれも捨てて来てっ」 可愛らしい声が特徴の永山さんまで、仕事を与えてくれた。 彼女の隣に置かれたのは、折り畳まれた巨大なダンボールがざっと見て数十枚。 "ついでに捨てる量"ではないのは、明らかだった。 私、ひどい嫌われようだな…。 でも参加しなかった自分が悪いのだから仕方がない、と言い聞かせ、泣く泣く承諾した。
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