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「なんでしたの?」
「本当に虚ろ覚えなんですけど…その子、お金持ちだったんです。それで…欲しいもの、なんでもあげるって言われて。すごく、惨めに感じちゃって」
あの頃は、まだ幼くて。
我慢をすることが、今よりも苦痛に感じてた。
でも表になんか出せなくて、毎日必死に平然を装って。
生活に対する不満と嫌悪が募りにつのっていた時だった。
妬ましくて、腹立たしくて。
すごく、ひどいことを言ったと思う。
思い出せないのは、忘れようとしたからだ。
何もなかったように、その記憶ごとを抹消して。
あんな醜い自分なんて存在しないと思い込みたかった。
…隠蔽している時点で、歪みきっているというのに。
「どうやって出会ったかとかは全然覚えてないんですけど、…嫌な思い出です。…恥ずかしくて」
「反省してる時点で偉いと思うけど?」
「そう、ですか…?」
「うん」
変わったところなんて何一つないのに。
どこか、違和感を覚える。
言い表せない何かに催促されて、自ずと発していた。
「ハルさんは…こういう経験、したことありますか?」
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