呪われし残酷な魔術

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抱き寄せていた腕を離し、正面までおもむろに歩む革靴がぼんやりと見える。 つま先が私に向き合ったとき、大きく吐かれた息の音を拾った。 「…今日はどしたの、そんな泣いて走って」 「言っ…たく…な…」 「居たくない?ここに?」 否定しようとした。 言い直そうとした。 でも、…違う。 私は、居たくないのだ。 文化祭の係とか、ゆっちんや有ちゃんとか。 そんな事を考える余裕なんて、どこにもなかった。 ただただ、ここから逃げたくて。 気付けば、彼の袖裾を掴んでいた。 私が二人がいるこの場所から、逃げ出したいことを。 そうすれば、救われる気になることを。 読心術に長けている彼は、きっと読み取ってくれたのだろう。 掴んだ手を振り払うことなく、無言で歩き出した。 彼しか縋りつくものはないと思った。 どこか遠く、何もない場所に連れて行ってくれるなら、もうなんだって良かった。 プルルル プルルルルル 鳴ったのは、ハルさんのケータイ。 足を止めた彼は"ちょっと待ってて"と言って、数メートル離れた所まで行って電話を出た。 落ち着きを取り戻しては、浮かんでくるあの場面にまた心を苛まれて。 いつの間か握らせてくれた水色のハンカチで、延々と悲しみを拭う他なかった。 ハタから見れば、一人で泣いてる私はきっと可笑しな人で。 顔を上げることが出来ないままに、待っていると。 「緒沢さんっ!」 心臓が、止まりそうになった。
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