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「あ、あの、なんで今日ここに…?」
話を逸らした、のもあるけど。
なんでハルさんがうちの文化祭に来ているのか、実はずっと気になっていた。
「なんでだろ?忘れちゃった」
彼は何故こんなにも、顔色一つ変えずにさらりと嘘をつけるのだろう。
追求する無意味さを知っている私は、潔く問い詰めることを諦めた。
「でもホント面白いよね。いつも泣いてるところに遭遇しちゃうんだから」
「…すいません」
確かに、彼の言うとおりだ。
いつも私が奏人くんのことで泣いてる時に、ばったりと出くわす。
そう考えた途端に、あの場面が蘇ってくる。
『これからはもっとしてね。いつもあたしからなんだから』
痛まないと思っていたのは、麻痺していたからなのか。
ずっしりとした胸の痛みが、一気に襲ってくる。
いつまで、こんな事で泣いてしまうんだろう。
いつまで、彼と彼女に囚われたままなのだろう。
蟻地獄から、抜け出したい。
固執的な自身から、放たれたい。
じゃなきゃ、もう押し潰されそうだ…。
「先に車で待ってて」
「え…?」
「その顔、見られたくないでしょ」
キーケースの車の鍵を掴み取って渡してきた彼は、呆れたように苦笑した。
…この人は、意地悪だ。
いつもバカにするくせに、こういう時だけ優しくして。
だからまた、我慢できずに泣いてしまう。
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