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「もしかして、永重さんの娘さん…ですか?」
「えっ?ああ、違うわ。親戚の子なのよ」
「そうそう!親戚の子なの!」
そういうこと、か。
よく考えたら娘さんなら子供がいるし、一緒に連れて来てるはずだよね。
「でも本当にびっくりしました…お二人が」
ん…?
左側から突如風が生じて、すぐに機械的な音が耳に入ってきた。
顔半分を振り向けるといつの間にか黒塗りのセダン車が、横に止まっていて。
手を大きく振るジェスチャーをし始める彼女を尻目に映して、目の前にある後部座席のカーフィルムが貼られたガラス窓から何故か目が逸らせなかった。
おもむろに降りる窓。
姿を現したのは、スーツを着た中年層の男性だった。
暗い車内で、眼鏡の銀縁が微かに反射している。
ふっくらした涙袋の下が濃い皺を刻んでいるけれど、尖った高い鼻や凛々しげな瞳が老いを感じさせない。
旦那様のような高圧的な雰囲気など一切ない。
目を細めて、眉を垂らすその微笑みが彼の温和さを物語っている。
それでも侵し難い品位と威厳を持ち合わせていた。
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