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『ゆっちん?』
『……………』
『どうしたの?…もしもーし?』
掌を目の前で上下に振ってみたが、反応なし。
まるで幽体離脱したように、意識ここに在らずで、微動だにしない。
『ちょっと本当にどうし』
『…王子様だわ』
『はい?』
『今さっき、あそこに、哀しい顔した男子がいて…』
彼女は信じられないといった口ぶりで、静か指差したのは左前方にある図書室の扉。
先ほどから窓前に立っていたが人の気配なんて全く感じなかった私は、この時、嫌な予感がした。
『ものすっごい、王子様だったわ…』
目をキラキラさせた自分の親友は、幽霊を見たんだと。
次の日から彼女の王子様探しが始まった。
その姿はもう、取り憑かれていたみたいだった。
そして全学年のクラスを渡り歩き、ジャージを着ていたことから全運動部をも制覇したのち。
『なんでいないのっ?!可笑しくないっ?!なんで?!』
…嫌な予感は、ものの見事に的中してしまったのだ。
その彼を見たのは、彼女だけ。
しかもたった一度だけ、しかも夏、という、ホラー要素満載の条件下。
幽霊だったんだってば。
とは、怖くてツッコめなかった。
それから"幽霊王子"は流石に祟られると思い、オブラートに"幻の王子様"と命名した、という経緯だ。
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