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タオルの柑橘系の匂いが胸を締め付ける。
患部と同じくらいに、痛い。
「雫!大丈夫っ?!」
心配した面持ちで走ってきたのは、有ちゃんだった。
保健室に行こうと脇に腕を通し、私を立たせようとしてくれたとき。
「きゃっ!」
えっ……
悲鳴のような声に有ちゃんと同時にそちらに目をやると、ネット前に立っていた目つきの悪い子がしゃがみ込んでいる。
ポン ポンと呑気に跳ねて、転がっていくボール。
え、え、え…。
何が起こったのか、全く分からなかった。
でもいつの間にか、奏人くんがネット近くにいて。
もしかしてと考える余裕もなく彼は後ろに振り返り、歩を進める先に立っていたのは稲田さんだった。
「奏人っ!」
駆けつけた高木くんは、慌てて奏人くんの腕を掴んだ。
振り切ろうとする彼の顔が視界に入った時、言葉を失った。
私の知ってる奏人くんじゃない。
いつも居心地良く感じさせてくれる雰囲気など、どこにもなくて。
優しくキラキラしていた目は、人を殺しそうなほど狂気に満ちていて、…完全に据わっていた。
「離せっ!」
「お前ちょっと落ち着けって!相手、女だぞ?!」
「それがどうしたんだよ?!女だからってしずに出血させていいのかよ?!」
「良くない、良くないのは先生も皆も分かってる。とりあえず落ち着け、な?ここは先生に任せて、お前早く保健室に連れてってやれよ。このままじゃ腫れるぞ」
彼の荒らげた声は、誰一人、音すら立てずにいる静まり返った体育館に響き渡っていた。
背中を摩る高木くんの諭しに、抵抗をやめた、かと思いきや。
「お前ら、次こんな事したらぶっ殺すかんなっ!」
巻き舌になっていた彼は全員に聞こえるくらいの大声で、そう言い放った。
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