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振り返った奏人くんと、唖然と凝視していた私の視線がぶつかって。
ピタッと固まってしまった彼はすぐに目を伏せて、ゆっくりと近づいて来た。
殺気も、憤怒ももう感じられなかった。
それでも先ほどの出来事があまりにも衝撃的で、身じろぎできない。
「山本さん、俺が保健室に連れてくよ」
「…分かったわ」
私の身体を支えていた有ちゃんの腕が、名残惜しそうに離れた。
ゆるりと目の前まで差し伸べられた、懐かしい手。
私より遥かに大きくて、指の関節がごつごつしていて。
初めてあの病室に行った時のことが彷彿させられる。
『こ、ん、に、ち、は?…ははっ、こんにちは』
だめなのに。
幸せなもの、選ばなきゃいけないのに。
どうしても、この手を求めてしまう。
感触に心躍る。
体温に心安らぐ。
「…立てる?」
なのに彼自身、私の顔を、見ようともしない。
…なんで?
なんで、こんなに優しくしてくれるの?
なんで、あんな必死に怒鳴ってくれるの?
なんで、私のこと…"しず"って、呼んだの?
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