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引っ張り上げてもらってから、館内にいる生徒全員の視線を背中に感じながら体育館を出た。
閑散とした渡り廊下に、人の姿はなかった。
隣を歩く奏人くんは黙ったきりで、私はこんな姿を見せてしまった恥ずかしさに打ちのめされ、渡り廊下はさざめく雨音と、ぽたりぽたり屋根から零れ落ちる水滴の音しか聞こえない。
「…ありがとう…」
「…うん」
言わなきゃと、ずっと思っていた言葉。
しかしこの後、何を切り出したら良いのかなんて、全く考えてない。
「…あの、さっき私のこと、しずって…呼んだ…よね?」
幸いにもはっきりとしない頭が、勝手に言葉を紡いでくれた。
多分、本能が気になって仕方がなかったのだろう。
それくらい、信じられなかった。
最初は、聞き間違いかと思った。
「なんで…?」
この呼び名を知ってるのは、お母さんとゆっちんとたっちゃんくらいで。
それなのに、なんで奏人くんが…?
「しずって?」
「え?」
「俺、雫って呼んでたと思うけど」
微笑みながらも、目を合わさない。
『女だからってしずに出血させていいのかよ?!』
だって二回目の時は、ちゃんと聞こえていた。
嘘をついてるのは、明白だった。
「…嘘、だ」
「嘘じゃないよ」
…なんで、認めないの?
嘘をつく必要が、どこにあるの?
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