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「あの子のことは本当に知らない。ただすごい顔でずっと見られてたから、びっくりしただけ」
またしても、完全否定。
しかしその場にいなかった私が、これ以上のことを言えるはずもなく。
結局、納得出来ずに悶々としたまま、目的地に着いてしまった。
「…先生、どっかに行ってるな」
保健室はもぬけの殻だった。
デスクに置いてある湯気立つコーヒーを見た奏人くんは、"すぐに戻ってくるな"と言って、そのまま中へ入った。
「座って」
消毒綿などがある応急処置のカート前に置かれた椅子を指差される。
鼻血を垂らしている顔なんて、死んでも見まられたくない。
必死に頭を横に振っていたら、腕を掴まれ、強制的に座らされた。
「ほら、早く、手」
無理だ、そんなの絶対無理だ。
「…自分でやる…」
「分かった」
奏人くんはそう言って、解放してくれた。
ピンセットで綿をつまみ、その上の壁にかかっている鏡に自分を映す。
恐る恐る黒のタオルを退かせると、出血は止まっていたものの、口周りに血がついていた。
見られなくて良かったと安堵しつつ、清潔にしたところで左頬が赤く腫れ上がっていることに気づく。
これはひどいな…。
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