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「これで冷しなよ」
手当をしてる間に作ったであろう氷袋を渡してくれた。
頬に当てながら途切れ途切れにお礼を言ったものの、奏人くんは無言だった。
向かい合わせに、立っているだけでも精一杯なのに。
流れる沈黙が、益々私を苦しめる。
「…あのさ」
「は…はい」
何を言われるのかなんか、見当もつかない。
また口を結ってしまった奏人くんに、心臓を鷲掴まれたまま。
器官に何かが詰まっているみたいに、呼吸がしにくい。
「なんで病室で…泣いてたの?」
「え…?」
「俺が退院した病室で、一人…泣いてた、よな?」
後頭部を殴られたような、衝撃が走った。
おかげで脳内から、ありとあらゆるものが飛び出して。
考える機能すらも、失せてしまった。
なんで奏人くんが、それを知ってるの…?
「…なんで、泣いてたの?」
言葉を発せられない私を射抜くように見つめる彼の瞳に、否定させてくれる余地は残っていなかった。
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