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一瞬の出来事に、思考が追いつかない。
ただ左頬が途端に激痛を訴えて。
視界がぐらりと揺れてから、そのまま落ちていくみたい。
ついには床と視線が限りなく近くなった時、左肘に鈍い痛みが走った。
じんじん麻痺している顔から、すーっと唇に熱い何かが伝うのを微かに感じる。
ポタッと木目に深紅の滴が落ちた瞬間、やっと、鼻血だと朦朧とした頭が判断できたとき。
「大丈夫っ?!」
反応する間もなく、突然、肩を掴まれて。
途端に、ガバッと身体を起こされる。
「どこ打ったっ?!」
…心臓が、止まりそうになった。
駆け寄ってきてれたのは、見たこともないような必死な形相をした、奏人くん。
なのに、何故か。
『大丈夫っ?!怪我はっ?血はっ?!』
あの子の声が、脳裏にこだました。
……なんで…?
忘れ去った過去の記憶に呆気にとられていたけれど、アーモンド型の目が見開いたのはぼんやり視界に映って。
私の鼻を抑えている手に退けて、断る間も与えず首にかけてたスポーツタオルを握らせた彼は、"つまんで、下向いて"とだけ言って、立ち上がった。
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