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「母さんに、他見ろって言われて…」
「みたいだね」
「その、俺…しずに嫌われちゃって…」
「俺にどんな反応を求めてんの?」
「え?」
「"それでも頑張れ"って励まして欲しい?それとも"もうやめろ"って止めてもらいたい?」
内心の隅から隅まで見抜く瞳は、人をどこまでも羞恥に晒して。
向けられた冷たい微笑は、名残惜しさもなく突き放す。
見透かしてしまうこの人に、こんな分かり切った質問を投げかけてしまった己の愚かさを省みる。
あまりの情けさに、返す言葉もみつからない。
無言になってしまった俺を一瞥した彼は、何も言わずに席を立った。
本来なら、自分で考えなければいけない。
しかし何もかもが円滑に運ぶ解法がどうしても見出せなかった。
…藁にも縋る思いだった。
「もし遥人なら、…どうする?」
戸を引いた手がピタリと静止し、おもむろに振り返る。
考え事をするように右側の口角だけを上げながら唸った遥人は、再びゆっくりと扉を開けて。
「どうせ無理なら、効率良く生きるね」
「…効率?」
「似た者同士お互い分かり合えるし、あの子のことも庇えるし、周りの賛同も得られるし。一石三鳥かと」
「それって…」
遥人は答えることなく、帰って行った。
ふっ、と僅かに緩んだ表情と。
呪縛のような最後の言葉を、身じろぎしない俺の脳裏に残して。
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