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今、この幸せを掴んでしまったならば。
無表情は、どうなるのだろう。
付き合ってないのならば、しずはきっと未だに何も知らない。
俺のせいであの時、伝えず終いの無表情の想いは。
報われることなく、無きものと扱われている彼の想いは。
今までの自分と同じように、漫然と彷徨い、延々と漂うしか道はない。
それが、如何な苦悶を虐げられるのか。
それが、どれほどの虚脱を味わうのか。
"同志"の奴を踏み台にして得たこの結果を、手にすることはできなかった。
『…ごめん……応え、られない』
そんな返答に、しずは消えそうな声でお礼を言った。
シャツの鎖骨あたりに浸透していたはずの彼女の温もりは、空気の中へと溶けていって。
想いが通じ合うという一世に一度の奇跡は、浸る間もなく砕け散った。
好きとか、もうそんな次元じゃない。
気づけば人生を賭けてしまうほど、のめり込んでしまっていた。
今までも、これからも。
彼女でしか世界を回せない。
それでもなお、選べないことが。
俺が支払うべき、真の代償だったのだと思う。
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