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「緒沢さん達になんかしたら、ただじゃおかないから」
「え…」
「じゃ。…今までありがと」
どんなに疎ましくても、こんな俺を好きになってくれたことに最後の礼はしようと決めていた。
付き合った期間の楽しい思い出も、実際はちゃんと存在していたから。
背を向けられた彼女は、もう追いかけては来なかった。
後ろから聞こえる啜り泣きに後ろ髪を引かれる、なんてこともない。
しずの事だけがやはり心残りではあるけれど。
俺が親に真実を告げることが、今までおじさんが積み重ねてきた信用が一瞬にして吹き飛ぶに値するものと分かっているはずだ。
五限はなんとなく出る気分になれなくて。
入学して以来、初めてサボった。
休憩時間、いつも誰か居るはずの屋上の広場は、閑散としていた。
入り口正面向かいに設置されたフェンス前のやや錆びれたベンチに腰掛けると、乾いた風が歓迎するように横切った。
運ばれた秋の独特な匂いが、無性に物寂しくさせて、言い難い虚しさに襲われる。
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