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「なんで今日…」
目の前に立っているのは、紛れもないしず。
帰省してるはずなのに。
いや、その前にもう来るはずがないのに。
【今日は聴いて欲しいものがあるんだ】
「…聴いてほしいもの?」
帰省する時間を変更したらしい彼女は、ベッドの上にこともあろうか、持ってきたおもちゃの木琴を置いた。
唐突すぎる出来事の数々を受け止めきれず、今から何が始まるのかと思案する間も与えず、小さな手で握られたばちはゆっくりと木板に降りる。
ポン ポン ポン ポン
…すぐに、聴き取れてしまった。
幼少期、この曲を耳にする度に睡蓮の葉を跳ね上がる蛙が浮かんで来てた。
捻くれていたせいで、皆が好きだと言っていたこの曲を毛嫌いしていた。
その認識が変わったのは、間違いなくあの時。
『このまえ、僕の誕生日にこっそり『キラキラ星』うたってくれたんだぞ』
…なんで?
嫌いなんじゃないのか?
これも美咲に頼まれたから?
無作法だから、尋ねなかったんじゃない。
しきりに沸いてくる疑問よりも。
演奏してくれている音楽よりも。
微かに映る彼女の伏し目がちの瞳に、噛み締めて一段と朱に染まる唇を釘付けで。
身体の芯が燃え滾るように熱くて、ついには逆上せてしまったのか。
…ガタッ!
何もかもが。
衝動、だった。
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