53人が本棚に入れています
本棚に追加
掴んだ手首の細さに、ぐらりと揺さぶられて。
…止められなかった。
止められるはずがなかった。
強引に口付けてしまった唇は驚くほど柔らかくて。
今まで押し殺してたものが、躊躇うことなく溢れ出る。
…やっぱり、好きだ。
どうしようもないくらい、好きだ。
畏れも、恥も、後ろめたさすら感じずに。
ただもう、全てを打ち明けようと思った。
「…あのさ」
この7年間、たまらなく欲しいと、渇望し続けた。
だからあんな過ちを犯してしまって。
それでもしず以外、何も見えなかった。
「……い」
「え?」
掠れた吐息は、思考を遮って。
手首の小刻みな震えが掌から伝ってきた。
ゆっくりと顔を上げた彼女の意志の強い瞳に射抜かれて。
苦渋に満ちた表情が、意識を一気に現実へ連れ戻す。
とめどなく流れてゆく大粒の涙が、両頬に無数の筋を作り出していた。
…しまった。
と察知した、同時期に。
「嫌い…っ!」
絞り出したような声は、まるで剣のように心臓を貫いて。
俺の手を振り切って、走り去って行く彼女を引き止めるどころか、反応もできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!