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「今日、祖父ちゃん家に帰ったんじゃ…」
「様子見てこいって。優香もう酒飲んでたし、って、見えてんだ?」
「あ…うん」
先ほど彼女が座ってた席に腰を下ろした遥人相手に上手く取り繕えず、意味もなく顔を背けてしまう。
つける必要もないだろうと包帯を取らされたものの、全てを見透かされそうで目も合わせられない。
「そんな顔しなくてもすぐに帰るよ」
「いや、そんな訳じゃ」
「今日はついでにこれ渡しに来たかっただけだから。はい、誕生日プレゼント」
思わず、瞠目してしまった。
細長い人差し指と親指に抓まれた、水色と白色のコントラスト。
慌てて受け取り、底の方を確認するとちゃんと、"印"が刻まれている。
間違いなく、俺の失くしたはずの消しゴムだ。
「なんでこれ…」
「しずちゃんから取ってきたのよ」
「っ!?」
彼の口から初めて聞いた彼女の名前に、声すら出なかった。
…しずからって、どういうこと?
まずなんで、遥人がしずと?
突然告げられた不可解極まりない出来事は、頭の中を一層撹乱してくれた。
全くついていけない俺を他所に、彼は素知らぬ顔で続ける。
「前、たまたまコンビニで泣いてた時に声かけただけで何にも言ってないから」
「待って、ちょっと待って。…そんな話なんか聞いてないんだけど」
「報告するほど中身のある話してないから。あの子の恋愛相談とかお前、聞きたい?」
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