47人が本棚に入れています
本棚に追加
空の色が、彼女が彩った色にしか映らなくて。
お香の薫りが掠めるたびに、傷口に塩を擦り込まれたような痛みに襲われる。
女性の声のほとんどを、彼女のものと聞き間違えるようになって。
似たような後ろ姿が視界に飛び込んでくると、勝手に走り出してしまう。
貰った物に触れる度に、後悔の念にぐしゃぐしゃと押し潰されて。
本人を見かけたら、抱き締めたくて、逃げ出したくなる衝動に駆られる。
"話しかけてはいけない"
"そんな権利などあるわけがない"
そう言い聞かせてたら、一週間足らずで精神は手の施しようがないほど腐敗してしまって。
単に生きてる、よりも遥かに苦痛に満ちた、地獄絵図だった。
一秒毎に並行して、増幅する悔恨を抱えきれない現在から逃避を選んだ思考は、未来に希望を託すようになって。
早く今日を終わらせてくれ。
さっさと明日になってくれ。
…もはや、祈りだった。
そんな憔悴しきった俺を、その人は前触れもなく呼び出した。
「急に悪かったわね」
見上げられているはずなのに、見下されているように感じて仕方がない。
腕を組みながら顎を突き出している姿が威圧的で、遠慮のない眼光鋭い睨みが責めたてて来る。
山本 有紗。
学年トップの成績を入学時からキープしている、学年主任ですら手に余る問題児で。
この学校でしずの唯一の友人だ。
最初のコメントを投稿しよう!