還された人魚の証

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空の色が、彼女が彩った色にしか映らなくて。 お香の薫りが掠めるたびに、傷口に塩を擦り込まれたような痛みに襲われる。 女性の声のほとんどを、彼女のものと聞き間違えるようになって。 似たような後ろ姿が視界に飛び込んでくると、勝手に走り出してしまう。 貰った物に触れる度に、後悔の念にぐしゃぐしゃと押し潰されて。 本人を見かけたら、抱き締めたくて、逃げ出したくなる衝動に駆られる。 "話しかけてはいけない" "そんな権利などあるわけがない" そう言い聞かせてたら、一週間足らずで精神は手の施しようがないほど腐敗してしまって。 単に生きてる、よりも遥かに苦痛に満ちた、地獄絵図だった。 一秒毎に並行して、増幅する悔恨を抱えきれない現在から逃避を選んだ思考は、未来に希望を託すようになって。 早く今日を終わらせてくれ。 さっさと明日になってくれ。 …もはや、祈りだった。 そんな憔悴しきった俺を、その人は前触れもなく呼び出した。 「急に悪かったわね」 見上げられているはずなのに、見下されているように感じて仕方がない。 腕を組みながら顎を突き出している姿が威圧的で、遠慮のない眼光鋭い睨みが責めたてて来る。 山本 有紗。 学年トップの成績を入学時からキープしている、学年主任ですら手に余る問題児で。 この学校でしずの唯一の友人だ。
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