還された人魚の証

3/26
前へ
/26ページ
次へ
「それはいいけど…話って?」 「別に振るのは構わないわ。あんたにも事情ってもんがあるんだと思うし」 てっきりフッたことを咎められると予想していただけに、肩すかしを食らった気分になる。 恐らくあの場にいたしず以外の全員が気付いてるだろうから、俺が好きだという前提で話をする彼女に驚きは抱かなかった。 「ただね、後始末はちゃんとしろって言いたいの」 「後始末…?」 「あの子が雫に何してるか、あんた知らないでしょ?」 拳で強く握られたような痛みが、電流みたく心臓を駆けてゆく。 あの子が誰なのか、聞くまでもなかった。 「毎日手出されてんのよ。引っ掻いたり、物ぶつけられたり」 「え……?」 一瞬、何を言われたのか本気で分からなかった。 そんな俺に息を呑む間も与えず、山本さんは険しい面持ちで続ける。 「自分で蒔いた種、雫に刈り取らせてどうすんの?」 想像を絶する内容に頭がついていけず、情けないほどに言葉が出てこない。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

47人が本棚に入れています
本棚に追加