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「諦めんのか?」
「え…あ……うん。…そのつもり」
たっちゃんらしくない質問だと思いながらも、それ以上に自身に言い聞かそうと必死で無意識に語尾を強めていた。
嘘をついてる後ろめたさからなのか、反射的に顔をも逸らしてしまう。
「…それ」
一切の表情を消した彼の落とした視線の先は、服の裾を皺々に握り締めている私の右手で。
何が、と、問いかける間もなかった。
「嘘つく時、そうするだろ」
「…えっ?!」
「昔から。自覚ないんだろうけど」
突然、指摘された致命的で無自覚な癖に狼狽えるばかりで。
いつから気づいていたのか、なんて恐ろしくて聞けやしない。
「ち、違うのっ。嘘つきたかったとかじゃなくて」
「うん」
「ごめん、…なんでもない」
墓穴を掘っている自分に気づいて、慌てて固く握っている手を離した。
動揺する自身を立ち直したくて背筋を伸ばしてみるけれど、目を合わせられないまま心臓が落ち着くのを待つしかできなかった。
「…今回は頑張れよ」
心地の悪い、人工的な温風に包まれた室内に私と彼しかいない。
それでもなお、波紋のごとく空間に広がるその声に耳を疑った。
今回"は"って、それじゃまるで…。
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