声なき海姫と泡沫の想い

15/30
前へ
/30ページ
次へ
…そうだった。 確かめなくては、と何度も思っていた。 忘れてはいけない、とても大切なことだった。 それを今の今まで、念頭になかった自身の脳は本当にポンコツなのかもしれない。 「たっちゃんにずっと聞きたいことがあるだけど…」 「なんだ?」 「奏人くんと…知り合いだった?」 たっちゃんの消しゴムを何故、奏人くんが持っていたのか、未だに解明されていなかったのだ。 細い目が見開いたのを、はっきりと捉えて。 静かに離れていく手が、図星をつかれている証拠に思えた。 「…なんでだ?」 「夏休みのとき、私がたっちゃんの物かって聞いた消しゴム…奏人くんの物なの」 「あいつの…?」 …あ、れ? 驚きを隠せない、予想に反した彼の反応に私も困惑してしまう。 「奏人くんが持ってたの。だから、二人は繋がりがあるんじゃないかって…」 「…俺は、ない」 「え…?」 聞き逃しては、なかった。 しかしその返答がどうしても意味深で、引っかかるものがあって。 懸命に待つ私の視線から一瞬目を逸らした彼は、再び答えた。 「俺は、ない」 一言一句間違えずに、といった口調が益々、私の見解を不可解の渦に沈めてゆく。 …これは、どういうことなのだろう。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加