声なき海姫と泡沫の想い

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「あ、誤解しないでね。可愛い子がいるって後輩たちが騒いでてさ。おじさん達が喜んでるよ」 「それはあたしへの嫌味かい?」 残りの注文の品を持ってきた女将さんは、わざとらしい口調で眉間を寄せた。 すると正面に座っていた、見るからに"女前"といった風貌の女性が持っているビールジョッキをゴトンと卓上に置いて。 「女将さん、こいつの名刺渡しておきますからセクハラで訴えていいですよ」 「はっ?!…ってなに本気で出してるんですか!」 「はははっ」 本当に鞄を弄りはじめた彼女の隣で、笑っているもう一人もスーツを着た紳士そうな男性。 同じ会社の先輩後輩らしい彼らは基本三人で来店し、こんなかけあいをしては女将さんや他のお客さんを笑わせている。 こうして、お客さんと笑い合うことは少なくない。 親しみやすく人懐こい女将さんの人柄が成す、この雰囲気がとても好き。 働いていて、苦に感じた事は一度も無い。
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