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私は恐らく、想う側の人間。
そして彼も、そうだと思う。
向けているベクトルの方角にいる相手のことしか見えない、ひどく柔軟性に欠けた性質だ。
お母さんの隣に行き、コタツの中に足を忍ばせた。
冷え切った足元が急に温かさに包まれるものだから、指先が麻痺したように感じて。
手触りの良いふとん生地を撫でながら、徐々に取り戻していく体温が安堵へと変わっていく。
「…通じ合うって難しいね」
「あたしからすれば、想い続ける方が難しいわ」
「そうかな…」
「だから雫は凄いなぁって感心するの。でもその分やっぱり母親として心配もするわけでね」
「…ごめんね」
「でも今の辛さをたんと堪能してほしい、とも思うのよね」
「え?な、なんで?」
「滅多にできない経験だから。それにね、得るものがたくさんあるから」
「たとえば?」
「それは本人にしか分からないけど…。でもね、あたし今でも信じてるの」
首を傾げて続きを促すと、お母さんはふわりと綿あめみたいな柔らかい微笑を浮かべた。
「どんなに悲しいこともね、神様から送られたプレゼントなのよ。ただ見た目がいびつだから、どうしても先入観でお粗末なものだと判断しがちでね。でも細心に、辛抱強くその包装資材を取っ払っていくと、予想だにしない素敵なものが入ってるんだ、って」
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