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泣き崩れてしまったあの時以来、奏人くんについて何も触れなかった。
その彼女が紡いでくれた一言一句は、みるみるうちに心に広がってゆく。
終着点をむかえたとき、私は息を呑むような喜ばしい何かを手に入れている。
今までのことに少しでも意味があるんじゃないかって思えて、どんな励ましよりも沁みるものがあった。
翌日。
駅前に並ぶ何軒かのお店の入口にクリスマスツリーが置かれて、街路樹は時間帯的にまだ点灯はしていないものの、イルミネーションが施されていた。
学校から家の道のりでクリスマス仕様になっているといえば、コンビニぐらいだった。
何処から流れるクリスマスソングや赤と緑の彩りに意味もなく高揚してしまう。
いくつになっても、夢溢れるこの雰囲気にドキドキする気持ちは廃らない。
夜になればより美しくなっているその風景を思い描きながら、待ち合わせ場所へと急いだ。
約束時間より10分も早く着いたのにもかかわらず、たっちゃんは既に待っていた。
「たっちゃん、早く来すぎだよっ」
「ああ、電車だったから」
久しく会っていないたっちゃんは、また背が伸びた気がする。
肌の黒さは夏に比べたら幾分薄れたけど、それがまた返って男らしく感じて少し戸惑ってしまう。
「どっか入るか?」
「あ…うん、そだね」
承諾したものの、口ごもる私を見かねた彼は暖房が効いている駅前のバス停の待合室を提示してくれた。
実はファミレスやカフェに入ろうかと思案したけれど、どれもピンと来なかった。
恋人みたい、と捉える私の思考力は、有ちゃんに言わせると小学生レベルなのかもしれない…。
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