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夕方の開店前。
店前を掃いていたけれど、…どうしても集中できない。
「何見てるの?」
ビクッと、大袈裟なまでに肩が跳ね上がってしまう。
店から出てきた山川さんは私が見ている方角へ、不思議そうに顔を向けていた。
「ごめんなさいっ、すぐに終わらせます」
「いや、それはいいんだよ。それより具合でも悪い? 」
「え?」
「今日ずっとぼんやりしてるからさ」
仕事中なのに、私は何をしてるんだ…。
心ここに在らずな自分に憤りさえ覚える。
しかし意識に反して、こんな時でさえ昨日のことを反芻してしまう。
慌ててそれを追い払う作業を、今日何度繰り返したことだろう。
「大丈夫ですっ、元気です。心配おかけしてすいません」
「ストーカーのこともあるから色々気を揉むだろうけど…俺らにできることがあったらなんでも言って」
この家の人は、なんでこんなにも優しいんだろう。
感謝の気持ちで、胸がいっぱいになって。
深々と頭を下げた私に、山川さんは"今日も送るね"と言ってくれた。
仕事に励むのが、せめてもの恩返し。
しっかりしろ、と自分に言い聞かせてお店に戻った。
この時、"彼"がやってくるなんて、もちろん予想もしていない。
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