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品よくミンチカツを食していた目の前の彼はふいに顔を起こし、唇の片端をにやりと上げた。
「そんな見つめるほどかっこいいの?」
…この後に及んで、まだこんな事が言えるなんて。
怒りを通り越して、 呆れてしまうというものだ。
人足が途絶えた店内には、彼ともう一組のお客さんしかいなかった。
女将さんに休憩を頂き、短い時間の中で詰問しようとはかるけれど、どこから開口すれば良いのかと戸惑っていた。
しかし相変わらずの態度に、真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「…なんで、騙してたんですか」
「サプライズ、とか?」
小首を傾げて、飄々と冗談をのたまうこの軽薄っぷり。
笑えない。
ちっとも笑えない。
本当に…この事実を一体、誰が想像できたのだろう。
『えっ?!え?っえ?…だ、だって五十嵐って…』
『五十嵐?それはあたしの旧姓だけど…ああ、きっとからかわれたのね。あの子ちょっと変わったところがあるから、あたしも掴めないのよー』
変わっているとか、掴めないとか、そんな次元の問題じゃない。
永重さんが古賀家の家政婦さんで、旧姓を名乗りあのリンゴゼリーの送ってくれた事実にも相当驚いたけれど。
この人に関しての衝撃は、並ならぬものではなくて。
ほんの数秒間だけど、昇天したんじゃないかってくらい唖然とさせられた。
『でもちゃんとあたしの子よ』
紀子さんが誇らしげに微笑んで告げたのは、五十嵐ハルと名乗る宇宙人の正体。
本名、古賀 遥人。
古賀家の長男であり、奏人くんの実兄、…らしい。
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