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彼女の存在はたちまち、学年男子の間に広がり渡っていた。
みんな口を揃えていうのは、"緒沢さんは綺麗すぎる"。
しかし必ずと言っていいほど次に続くのは、"でも山本さんが怖い"だった。
彼女ができた一番の友達は、学年成績トップの不良女子の山本 有紗。
とにかく態度がでかく、目つきも口もガラも悪い。
うちは名の知れた進学校。度量が平均値を遥かに下回る男子ばかりだ。
それゆえに、他クラスでも彼女に話しかけに行く勇者は出てこなかった。
そんな彼女と二年生になって、また同じクラスになったのだが。
「しずっ」
嫌な予感、ですらない。
むしろ、またか、と言った方が適切だ。
窓からひょこっと顔を覗かせた奴は、朝練の時より数倍パワーアップした爽やかな笑顔を彼女に向けて、ニカっと並びの良い白い歯を惜しみ無く見せている。
「おはようっ。…って汗、かいてるよ」
鞄から素早く空色のタオルハンカチを取り出した緒沢さんは、躊躇いがちにその相手に差し出した。
すると、こともあろうか奴は受け取る手を窓枠についたまま、顔をぐっと彼女に近づけて。
「ん」
「えっ、え」
「代わりに拭いて欲しいなー」
ニンマリとした顔に、…殺意しか芽生えない。
しかし俺の殺戮ビームに目をくれることなく、奴は変わらず目の前の天使に釘付けなのだ。
「……もう…」
はにかむ彼女は、なんとも気恥ずかしそうに。
それはそれは割れ物を扱うような手つきで奴の頬に伝う汗をポンポンと拭うではないか。
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