夏の追憶

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天へと伸びる入道雲。 どこまでも広がる青い空。 それを反射してキラキラと輝く穏やかな海。 向かいの林から聞こえる蝉の大合唱。 海沿いのヘアピンカーブ。 へこんだガードレールは新しくなり、 散らばったバイクの欠片はもう見当たらない。 ギュッと握りしめたのはあの人の遺品。 いびつに潰れた小さい濃紺の箱。 その箱の中には小さな指輪が無傷で納まっていた。 行き場を失ったそれは・・・ダイヤの指輪。 3年経っても手放せないその箱は、あの人の愛の証。 あの人が生きていた証。 私は黒いワンピースの裾を靡かせ、崖に立つ。 「夏なんてなくなればいいのに・・・!」 そう叫びながら投げた向日葵の花束が、 放物線を描き崖下の海へと吸い込まれていった。 あの人を奪った夏なんて・・・ ───なくなってしまえばいい。
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