38人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
天へと伸びる入道雲。
どこまでも広がる青い空。
それを反射してキラキラと輝く穏やかな海。
向かいの林から聞こえる蝉の大合唱。
海沿いのヘアピンカーブ。
へこんだガードレールは新しくなり、
散らばったバイクの欠片はもう見当たらない。
ギュッと握りしめたのはあの人の遺品。
いびつに潰れた小さい濃紺の箱。
その箱の中には小さな指輪が無傷で納まっていた。
行き場を失ったそれは・・・ダイヤの指輪。
3年経っても手放せないその箱は、あの人の愛の証。
あの人が生きていた証。
私は黒いワンピースの裾を靡かせ、崖に立つ。
「夏なんてなくなればいいのに・・・!」
そう叫びながら投げた向日葵の花束が、
放物線を描き崖下の海へと吸い込まれていった。
あの人を奪った夏なんて・・・
───なくなってしまえばいい。
最初のコメントを投稿しよう!