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初めてのデートは水族館。
夏の海で海水浴。
二人きりのクリスマス。
アルバイトしたお金で行った温泉旅行。
スーツを着たあの人と袴姿の私の卒業式。
何度も何度も開いたアルバム。
それを見返す時だけ、私は笑顔を取り戻す。
私とあの人が共に過ごした時間は確実にそこに残っている。
目を閉じるだけであの時間を巻き戻せる。
神社から響く祭り囃子
歩きづらい浴衣の裾
熱気に揺れる吊るされた提灯
夜を彩るたくさんの出店
それらに目を輝かせて、アレ食べたいコレやりたいとはしゃぐ笑顔のあの人。
『はぐれるといけないから』
差し出された手を取ることにはもう慣れて。
それでも耳を赤くしていた、照れ屋なあの人。
赤いかき氷
熱々のタコ焼き
薄紫の水風船
ビニール袋の赤い金魚も楽し気に尾を振る。
射的でねだったピンクの指輪
華奢で安っぽいそれをそっと指にはめてくれた。
『・・・いつかは本物のダイヤをここに買ってやる』
そう言って左手薬指の付け根を撫でられた。
二人だけの淡い想い出、儚い約束。
色褪せたアルバムにはいつまでたっても鮮明なあの人がいる。
嬉しそうに微笑む二人が懐かしくて羨ましくて涙が込み上げそうになる。
遠い日の約束は果たされないまま、私たちは大人になり、私はあの日から何もかもが止まったまま。
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