夏の追憶

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「待って!」 葬祭場から出たその女性を私は追いかけて呼び止めた。 一瞬ピクリと肩を震わせ、その女はゆっくりと私の方を振り返る。 ずっと堪えていただろう涙が、頬を伝って零れていった。 それはダイヤのように美しい涙で、私は思わず息を飲んだ。 「・・・あの日、あの人が逢いに行ったのは  ・・・あなた、なんでしょう?」 その女は怯えたように瞳を揺らして私を見た。 本当は薄々感じていた。 中学・高校・大学と、ずっと一緒に過ごした私たちが、社会人になり初めて別々の世界で過ごし始めた。 今までのすべてにあの人がいたけれど、 就職してからは逢う回数もメールや電話の回数も次第に減り始めて。 でもそれは慣れない仕事に追われていたからだと思っていた。 そうあの人は─── 新しい世界で、 新しい恋を見つけていた。 私以上に愛せる人と出逢っていた。 私のいない、私の知らない世界で。
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