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【 テナー 】
昔から、私は何をするにも冴えない子供だった。
サラリーマンの父と、パートをしながら私を育ててくれている母。
ごく平凡な家庭で育った私だけれど、私自身は平凡にはなれなかった。
無個性で、引っ込み思案。
人の前に出ることはとても苦手で、自分から行動することは恐怖でしかない。
ましてや私の発言や行動によって誰かに嫌われてしまったら・・・・・・なんて考えると、積極的に友達さえも作れなくて。
その結果、私は世間でいう【ぼっち】というものになってしまった。
そうなると、じわじわとやってくるのが孤独感や虚無感だった。
何もしていないのにクラスで浮いてしまって、教室の中じゃ呼吸をするのも苦しい。
目を合わせられると不安になる。
話しかけられても、上手く応えられる自信がない。
そんな状況に陥ることを恐れて、同級生達を避けて、避けて、避けまくっていたら。
『小坂さんて、協調性がないよね』
なんて言われてしまった。
そして始まった、女子達による総シカト。
私とは深く関わりたくないと、壁を作られてしまった。
それも、仕方ないと諦めてはいるけれど。
それでも、どうしても。
時々、無性にやるせなくなる。
私を見て欲しい。
私という存在を知って欲しい。
本当はこんなのは嫌なんだ。
私はもっと、誰かと肩を並べて歩けるような人間になりたいんだ。
何も知らないくせに、私のことを影で評価しないで。
なんて、一つも言えやしないくせに。
そんなことばかり考えている私という人間は、なんて陰湿で面倒なヤツだろう。
だけどそれが私なのだから、もはやどうしようもない。
旧校舎の屋上。
随分昔から使われなくなってしまった人気のないこの場所で、私はひとり、呼吸をするために横たわる。
青い空を見ると死にたくなる人間が居るらしいが、私は違う。
青い空を見ると、私は・・・・・・泣きたくなる。
情けない自分に辟易して、そんな自分を変えられなくて。
後は全部、私を理解してくれないみんなが悪いんだと思い込んで。
自分という殻に閉じこもるばかりだ。
まるでテナーのように低い音が世界を覆って、私の見えている景色は薄暗い積乱雲みたいに荒れている。
そんな気分が嫌で口ずさむのは、いつか父が歌っていた「上を向いて歩こう」。
だけどその歌声は、ほんの少し、情けなく震えていた。
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