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彼がこうして私の元へやって来たことなど理解不能だ。
頭を下げて、手を振りほどいて歩き出す。
先輩は不服そうに眉をしかめた後、去っていく私の背中に「諦めないぞー」なんてやる気のない声を投げかけた。
それも聞こえないフリをして、誰かにこんな状況を見られては居なかっただろうかと心配する。
冴えない私が人気者な彼と関わったなんてバレたりしたら、女子からなんて言われるか。
それが怖くて、授業中は先輩と二度と会わないようにするにはどうしいたらいいのかという事だけを考えていた。
*―*―*―*―*―*
お昼休みになる頃。
その日の私は、いつもよりも居心地の悪い雰囲気をクラス中から感じ取っていて、そんな空気が酷く嫌ですぐさま教室を抜け出した。
ヒソヒソと、女の子たちが私を見ては声を潜めて何か話している。
ああ、やっぱり。
今朝の出来事を、やはり誰かしらに見られていたらしい。
そして私は女子たちから反感を買ってしまったのだろう。
こんなに理不尽なことってない。
だけど彼と二度と会話することがなければ、人の噂も七十五日というもので、こんな空気もすぐに収まるはずだ。
身を縮こませて大人しくしていれば、元通りの生活が戻ってくる。
だけども、そんなささやかな願いさえも神様は聞いてくれないらしい。
旧校舎の屋上、私の唯一の安らげる場所で一息を吐いた時だった。
「やっぱり今日も来たな」
そう背後から掛けられた声に心臓が飛び跳ねて、全身が凍える気がした。
まさか、まさかと振り返れば、いま一番会いたくなかった人物がそこに居た。
「昨日も一昨日も、っていうか今年入ってからずっとここに来てるよな。んで、天気いい日とかはたまに歌ってたりしててさ、っておい!!」
先輩が言い合えるより先にくるりと方向転換。
私は何を言うでもなく、すぐさまこの場から退散するべく走った。
まさか、まさか、まさか。
ここで溢した愚痴も泣きべそも全部聞かれていたというのか。
羞恥やら情けなさやら泣き出したいやらで、私はとにかく逃げた。
だというのに、先輩はすれ違い様に私の腕をしっかりと掴み上げ、さも当然みたいに引き寄せたのだ。
「話くらい聞けって!別にからかうつもりで声かけてるわけじゃないぞ!」
「……じゃあ、なんで」
「今朝言っただろ? 部活の勧誘だって」
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