1,テナー

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グッと、腕にさらに力を込められた。 きっと、もしかしたら、本気で言っているのかもしれない。 だけど、それすらも嘘かもしれない。 こんなにも疑心暗鬼な自分は嫌だけれど、信じることは怖くて仕方ない。 信じて、それを裏切られることが死ぬほど怖いのだ。 「先輩は……私のことを知らないでしょう」 ようやく口に出せた言葉。 先輩は目を丸めて、私を見た。 「知らないのは仕方ない。こうして面と向かって話をしたのは今日が初めてだし、学年も違うしな」 あっけらかんと、先輩は言い放つ。 私は嘲笑気味に笑って、泣きたくなる。 「だから、私なんかを誘ったりしちゃったわけですか」 私がクラスどころか学年全体からどう思われているのか。 上級生にも伝わっているものだと思っていたが。 「……なぁ、さっきからその"私なんか"ってなんなんだ?」 「私、クラスで浮いてるんです。協調性なんて無いですし、誰かと仲良くなろうとも思っていませんし、今朝見た通り、周りからはよく思われていないんですよ。そんな私なんかをバンドに誘うなんて、とても信じられる話じゃないです」 「……」 「本気にしろ、冗談にしろ、私を誘ったのは間違いです。先輩は目立つ人ですし、二度と関わりたく無いのが私の本音です」 さあ、手を離して。 どれだけ御門違いな話を持ちかけたのか、これでわかっただろう。 私はあなたとは住む世界が違うのだ。 あなたは日向で、私は日陰に居るべきで、それが正しいのだから。
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