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掴まれた腕を振りほどいて、扉に向かって歩き出す。
先輩がどんな顔をしているかなんて知る必要はない。
もう二度と関わるつもりはないのだから。
ドアノブに手を掛けて、錆びて重たくなっているそれを壊れないように慎重に回した。
そんな私に、空気をつんざくほどの大声が背中から浴びせられる。
「小坂 陽来!1年B組、出席番号27番、クラスでのあだ名は " ネクラザカ "!」
「……なっ」
「こうして話すのは確かに初めてだよ。だけど、お前の歌声を聞いてからずっと、俺はお前の情報探りまくってんだよ!何が関わりたくないだ?ふざけんな!俺のことをよく知りもしないくせに、お前こそ馬鹿なこと言ってんな!」
憮然とした表情で、こちらに向かってそう吐き捨てた先輩。
思わず唖然とした。
グラウンドまで響くようなそんな大声で、私の情報を叫んだ挙句に罵倒までしてきたのだ。
存外頭に血が上ってしまった私は、堪らず怒鳴り返していた。
「ば、馬鹿は余計じゃないですか?? 先輩の情報なんて、調べなくたってあちこちから聞こえてるんですよ!目立ってるし、良く騒いで先生たちに追いかけ回されてるのも見てるし、先輩がどんな人間かなんて、こうして話さなくたってわかりますよ!!」
「はぁ?じゃあ、俺が何を好きだとか嫌いだとか、何を目標にしてるだとか知ってんのか? 本気で目指してるものだとか、そんなもん、お前は何一つ知らねぇだろ!」
「知る必要ないですもん!あなたの側に居たら悪目立ちして迷惑被るのは私なんですよ!」
「そんなことばっか怖がってたら何も出来ねぇだろ!周りばっか気にしやがって、本当は言いたいことたくさんあるんだろ!?」
「なんで先輩にそんなこと言われなきゃならないんですか!!私は私なりに必死にやってるんです!クラスの子たちから無視されても平気ですし、ネクラだって言われるのも、事実だからしょうがないじゃないですか!!」
「なら、なんで泣いてんだよ!」
「……ッ」
言い合いの末、不意を突いた先輩の言葉に息を飲んだ。
頬を撫でる風がさっきよりも冷たく感じるのは、きっと私の目から地面へと落ちていくこの水のせい。
先輩は不機嫌そうに私を見て、トーンを下げて問い詰めた。
「今のままは嫌なんだろ?昨日だって、歌いながら泣いてたじゃねぇか。本当はこの現状を変えたいんじゃないのか」
「そんな、こと」
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