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あいつが自殺した理由は、よくわからなかった。遺書みたいなものも無かったし。いつも通りの話をして、別れて。その二日後に、突然だった。
僕はそれから歌を歌い始めた。それまで手慰みにギターを弾いたりなんかしていたけれど、歌は歌ってこなかった。こっぱずかしいとか、歌は下手なんだとか、まあ、とるにたらないくだらない理由だったと思う。
それでも、とりあえず歌ってみようかと思って、歌い始めた。
最初は一人で。だんだんとそれが二人、三人、四人となって、僕らはバンドを組んだ。全員あいつのことを知っている奴らで、なんとなく気が合った。安心したと言い換えてもいい。
僕はあいつみたいに世界が狂ってるだとか、自分が狂ってるだとか、考えたことなんてないけれども。それでも、うまく言い表すことができないけれど、なんとなく言いたいことがあって、歌を歌った。
最初はコピーバンドみたいな感じで、誰もが知っているような有名な曲を演奏したりした。勿論、なんとなくで集まった僕らに技量なんてものはなかったけれど、それでもやり続けた。
やり続ければ、いつか何かがつかめるんじゃないかと思った。僕も、バンドメンバーもよくわかってないけれど、それでも何かがつかめるんじゃないかと思ったんだ。
勿論、僕たちは夢を追いかけ続ける集まりじゃないから、大学を卒業する頃にはみんな就職が決まっていて、それぞれの道に進み始めていた。それでも、何故だか僕たちは時間を見つけては集まって、歌い続けた。
いつしか、そこそこ上手くなってきて、そこそこ名前が売れてきて、小さい箱なら満員にできるようになってきた。相変わらず、まだまだコピーバンドの域を出ないような僕らだったけど、それでもお客さんは喜んでくれた。
その頃から、メンバーの間でそろそろオリジナルの曲をやってみないか、という話が持ち上がっていた。
まだ何も見つかっていない僕らだったけれど、言葉にすることでなにか見つかることもあるんじゃないかと、みんなで話し合った。
そして、僕はあいつの曲を作った。あいつのことを、そうやって言葉にしたのは久々だった。別に意図して言葉にしていなかった訳では無いけれど、それでもなんとなく言葉にする機会が減ってきていた。だから、これは僕にとってもメンバーにとってもいい機会になるんじゃないかと思った。
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