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今は昔、長きに渡った戦が終わりわずかながらも平穏を取り戻していた。 富士山の奥深くに隠れ里があった。大昔には、ここら一帯に王国があったのだが今は見る影ももない。土蜘蛛と罵られ朝廷から滅ぼされたのだ。 それ以来山の民となりひっそりと暮らしている。 村はこじんまりとしており、正面に大きく構えている藁葺き屋根の家が長の家である。 神社は山の奥にあり背後に大きな磐坐がそびえたっている。磐坐にくっつくように神殿が建っている。 その神殿の手前に同じ造りの建物が建ってある、ここは祭祀者が住む場所である。現在の巫女は七人。 巫女長のコトが年長で38歳。白い着物に髪を腰まで垂らしている。 神殿の中央に座し水盆に銅鏡を沈めた。 底まで沈んだのを見届けると両手で柏手を打った。 ぶくぶくと泡が立ち水盆の水は一気に淀みはじめた。 コトは顔をしかめた。 ぶくっ 最後の泡が消えた後、漆黒の色があった。 「…これは、まずい」 きゃああああああああああぁぁぁ 女の悲鳴が響き渡った。 別の棟で若い巫女が床にとっ伏して悲鳴をあげている。 「オリト姉様!」 若い巫女よりも2、3年下だろうか髪を後ろに束ねた巫女…ムツキがなだめるように背に手を置いた。 オリトの髪は長く床に黒々とした髪がうねっている。 「どうしたのだ!」 入口に現れたコトを見てムツキは安堵した。 「オリト姉様が先見を行ったら、突然このように」 コトはすばやくオリトのもとに行き肩を抱いた。 「気を沈めよ!」 オリトはコトにすがりついた 「闇が…闇がおしよせて参ります。ヨモツヒラサカの戸が開いてしまいます!」 「まだ打つ手はある!しっかりしなさい!」 オリトはぐしゃぐしゃに顔をゆがませて顔を伏せた。 「私は怖いのです。」 「大丈夫です。大丈夫ですよ。まだ間に合います。ムツキ、ヨリトにヒモロギの浄化をお願いしといてください。」 「わかりました。」
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