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◇◇◇
日本の形は龍の形を成している龍の頭が蝦夷ならば尾は琉球であろう。
ならば龍の心臓の場所はどこだと言われれば諏訪だろう。
諏訪大社の神殿にて歳があまり違わぬ若い巫女の報告を聞いて神主が眉をひそめた。
「それは真か?」
巫女の千は頷いた。
「うぅーむ、うぅーむ」
優面の顔に渋面を作り唸る神主に千は
「祢宜に確認に行かせてはどうです。」
「おお、そうじゃな。」
神主は一つ頷いて
「うむ、あとは…。」
「祭事の準備も行っておきます。」
「ああ、頼んだよ。」
千は頭を下げて心の内でため息を吐いた。
なんて、頼りない。頼りないが能力はあるから頼りにしておこう。などと頼りにしてるのかないのかわからない思考に発展する。
「千、神主様はなんて?」
そう尋ねてきたのは、同じ巫女の美松だ。
自分より背が拳ひとつほど高い。
「祭事の準備を、と。」
「そう。穂波、美喜、ご神水を汲んできて。阿知はありたっけの鏡を。」
美松がてきぱきと指示を出す。
「千は御神酒を戴いてきて、私は榊を採ってくるわ。」
榊は倉の近くに生えているから、千と美松は並んで歩いた。
「何事もなければよいけど」
「何事もないようにするのが私達のお勤めよ。」
千の言葉に美松が力強く言った。
「そうね。」
美松は遠くを見るようにして空を見た。
「それに、伊勢や比叡、鞍馬だって動くわ。」
「高野も、いろんな寺社もね。」
「三百年前も事なきを得たんだから、今回も大丈夫にしてみせなきゃ」
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