埋まらない傷

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出かけようとして、姿見に映った自分をじっと見つめた。 「莎弥になるなんて無理なのに、私は馬鹿か…」 志音の言葉で莎弥の代わりの重みを再確認したが、私は莎弥を言い訳にして、志音の気を引こうとしていないか? 「私は…志音が好き…なんだろうか?」 姿見の向こうの私が何も答えるはずもなく、ノロノロと動く私の姿を忠実に映し出すだけ。 特に志音と約束したワケでもないのに、私は志音が帰り際に持たせた涼しげな色のノースリーブのワンピースを着て、以前買ってもらった七分袖のボレロを羽織る。 いつも通りの緩めのウェーブのかかったウィッグを付けて、志音と出かけた時の女性になる。 「メイクはしなくてもいいか。……やっぱり莎弥と全然似ていないじゃないか。莎弥はもっと可愛らしくて、こんな迫力のある女性じゃないぞ」 とりあえず財布と部屋に置いていたカジュアルパンプスを持って玄関まで行く。 頼むから母に見つかりませんように! なるべく物音を立てずに、鍵もそっとかけて外に出る。 何だかピッキングでもしている気分だ。 いや本当は施錠しているんだが。 「やっぱり暑いな…」 昼間より風が吹いても涼しいと思えない。 風が熱風だからだ。
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