埋まらない傷

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「い、行こうぜ…」 「お姉さんまたね」 暴力沙汰にならなくてよかったと思いながら、小さく溜め息をつくと、志音の手が離れる。 「さすがに声は上げられなかった?」 「声の低さで男だとバレるからな。だが助かった、ありがとう」 「あれ?莎弥ってそんな喋り方だっけ?そんな七っちみたいな喋り方は似合わないよ♪」 志音? 私は七瀬で莎弥じゃない…何故? まさか…莎弥になると言ったから、莎弥として付き合うってことなのか…? 「莎弥?」 「えっと……そうだね、お兄ちゃんみたいな喋り方はおかしいよね?ごめんね♪」 私は上手に笑えているだろうか? きちんと莎弥になれているのだろうか? 「莎弥、無理して笑顔になんなくていいよ。ナンパ初めてでびっくりしたんだよな?」 やっぱり笑顔は引きつっているんだな。 私が笑えないのは、ナンパのせいじゃないのを分かっているクセに、何でそんなふうに言うんだ…。 「莎弥?」 「っ!帰る!私は…私は莎弥じゃない!」 莎弥になるとか莎弥の代わりとか、私は本当にできると思っていたのだろうか? どこかで志音が「やらなくていいよ」と言ってくれるんじゃないかと期待していたんじゃないか?
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