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志音の悲しみはよく分かった。
今でこそチャラチャラした軽薄な男だが、莎弥と交際していた時は、心から莎弥を大切にして、莎弥との将来も真面目に考えていた。
悔しかったが、莎弥の幸せいっぱいの笑顔を見ると、兄として一歩引いて、二人を祝福して見守ることにした。
家族も志音が気に入っていたし、私とも友人であったことから、特に障害はなかったろう。
向こうの両親も莎弥を実の娘のように可愛がってくれて、葬儀では志音ほどではないが悲しんでいた。
葬儀をぼんやり眺めて気が付けば、莎弥は莎弥の原型を留めていない骨になっていた。
誰もが悲しみながら、莎弥の骨を親に回し小さな壺に入れる。
私は何故か莎弥と思えず、炭化した木片を箸で掴んでいる気持ちだった。
莎弥は骨になったんじゃない、きっとどこかに隠れていて、茶目っ気たっぷりの笑顔でひょっこり現れるんじゃないかと思った。
葬儀の後はクラスメイトやら後輩達から、たくさんのお悔やみの言葉をもらった。
誰もが莎弥の死を悼んでくれているのは分かるのに、私は機械か何かのように頷くだけで…。
言葉が目の前を素通りしている気さえしていた。
それを強引に断ち切ったのは志音だった。
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