埋まらない傷

8/9

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ
莎弥になると言ったのに、莎弥として扱われたくなくて、志音に何度も「莎弥」と呼ばれると、心の中の本当の私が、七瀬が悲鳴を上げる。 心の中でも莎弥でいようとする私と七瀬でいたい私が争う。 いっそ心が壊れてしまえば楽になれるんじゃないかと思うほどだ。 何もかも忘れてなかったことにできれば、私は本当に救われたかもしれない。 けど、志音が絶対にそれをさせない。 志音は私を引っ張り上げると同時に、共に堕ちる道を選んだのかもしれない。 一人では耐えられないなら二人で堕ちればいい。 私達は永遠に有効な『莎弥』という免罪符があるから許される。 許されたいのに許されたくない。 解放されたいのに囚われていたい。 欲しいのに不要にする。 私達はこのループが心地よくていつまでもこのままなんだろうか? 本当はこのループをやめないと戻れなくなりそうだ。 「志音…私は私なりに莎弥をやる。だから…時々でいいから七瀬を、お兄ちゃんのことを思い出してあげてね。お兄ちゃん寂しがり屋なのよ♪」 涙の乾いた顔で一番の笑顔で志音に笑いかける。 私なりの莎弥は、きっと違和感がありすぎて困るくらいの莎弥なのは間違いない。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加