通りの記憶

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新宿通り 新宿通り沿いにある紀伊国屋は、僕達が一番多く待ち合わせをした場所だ。理由は簡単。僕が単に本屋が好きだからだ。僕は暇を持て余すと必ず本屋に立ち寄る。ぶらぶら、うろうろして、気になった本を選ぶのが僕の数少ない趣味の一つだ。でも、彼女との待ち合わせの前に本が買えたことはほとんど無かった。買えたのは、予めこれを買おうと決めていた時だけだ。何故かって?これも、理由は簡単。彼女を待っているときに他のことに興味なんて持てるわけないじゃないか。だから、紀伊国屋で待ち合わせてた意味なんて、本当は全然無いんだ。 無数に並んでいる本の表紙を眺めながら、彼女のことを考えてた。雨が降りそうだった。彼女、濡れると、またすぐ風邪ひくからなあなんて、思ってた。だから、僕は無印に傘を買いに行ったんだ。 「もしもし、ごめん。今、紀伊国屋に着いたよ。どこ?」 「ねえ、紀伊国屋を新宿通り側に出てくれる。それで横断歩道を渡らないで、左に真っ直ぐ歩いてきてよ。」 「うん。わかった。」 僕は迎えに行かないで、無印の店の前に立っていた。 「もしもし、左に来たよ。どこ?」 「もう、ちょっと真っ直ぐ。」 「あっ、いたいた。」 人ごみを縫うようにして、歩く彼女。こっちを見ながら歩いていた。 僕はただ、彼女が歩いている姿が見たかった。彼女がずんずん歩いているところを見るのが、その頃の僕の一番の趣味だったんだよ。
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